みなさま、こんばんは!

本日は定期的にお届けしているコラムを配信させていただきます。

6回目となる今回は「アフリカ物流市場のマーケットポテンシャルとは?」と題して、アフリカ大陸のロジスティクス分野を取り上げていきたいと思います。


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コロナウイルスの蔓延が深刻化するにつれ、世界各地では食料品から医薬品、また家庭用品まであらゆる商品が在宅注文によりオンラインで購入されるようになりました。アフリカ大陸でも富裕層を中心に同様の消費傾向がみられていますが、アフリカ大陸では未だeコマース市場がすでに整備されている先進国と同等の便利さや安全性を消費者に提供できているわけではないのが現状です。そこで今回はeコマース需要の高まりから見えてくるロジスティクス分野のマーケットポテンシャルに着目しお話していきたいと思います。


高まるeコマース需要

アフリカ大陸ではここ10年間で急速に進展した中産階級の拡大とモバイルおよびインターネットの普及により、近年eコマース分野のマーケットポテンシャルに期待が集まってきています。実際に大陸全体の消費者支出は2025年までに2.1兆ドルに達すると予想されており、その頃にはサブサハラアフリカでの携帯電話の普及率も50%を超えると見込まれています。

関連する過去の面白記事:

  1. 「面白記事 v.28(投稿:2020年5月2日)記事3」Link
  2. 「面白記事 v.30(投稿:2020年5月6日)記事1」Link
  3. 「面白記事 v.35(投稿:2020年5月13日)記事3」Link
  4. 「面白記事 v.48(投稿:2020年6月1日)記事2」Link
  5. 「面白記事 v.96 (投稿:2020年7月31日) 記事3」Link

eコマース市場拡大のボトルネックとは?

しかしこれまでのところ、企業らは物流上の課題のためにサブサハラアフリカのeコマースポテンシャルにうまくアプローチできていないのが実状となっているのです。人口と経済規模からサブサハラアフリカ最大の経済大国とも称されるナイジェリアの下記でご紹介するデータを例にみても未だ物流上の課題が多く残っているのがお分かりいただけるかと思います。

世界銀行によるとサブサハラアフリカ最大の経済規模を誇るナイジェリアも物流効率という項目では世界160カ国中110位と、物流網が未だ整備されていない状況が指摘されています。実際に自動車部品をナイジェリアのラゴス経由で輸入する場合は南アフリカのダーバン経由で輸入する場合の約3倍の時間がかかるとも言われています。

さらにサブサハラアフリカ全域では米国よりも商品の輸送に最大5倍の費用がかかる可能性があるというデータも出ています。ナイジェリアのみならず大陸全域での物流網の不十分な整備や統合は企業らが小規模な市場にしかアクセスできず、国境を越える際に赤字に直面してしまうことを意味しているのです。

関連する過去の面白記事:

  1. 「面白記事 v.66(投稿:2020年6月23日) 記事1」Link

実際どれほどビジネスに影響しているの?

さて、ここからは欧米やアジアとアフリカにおける企業らのeコマース市場への進出事例を比較し、アフリカ大陸で未整備であるインフラ環境が実際にどれほどビジネスの実装に影響を及ぼしているのか見ていきたいと思います。

まず今や世界最大の流通総額を誇るオンラインモバイルコマースカンパニーである中国のAlibabaの事例を見ていきたいと思います。1999年に設立された同社は2000年代初頭から本格的に中国にてeコマースエコシステムの構築を開始しました。中国では1990年代に政府が多額の投資を行った結果として比較的先進的な都市インフラが完成しており、同社はその物理的インフラと既存の金融インフラを利用し、2002年にはB2B市場にて収益化を達成しました。さらに2003年には独自のECサイトTaobaoを、2004年には独自のオンライン決済プラットフォームAlipayを設立し、クレジットカード浸透の欠如を克服するとともに、CtoC市場への進出を拡大させていきました。

上記の事例に加えて欧米でも強力な全国郵便システム、FedExやUPSなどのラストマイル配達システム、また信頼性が高く広く普及しているクレジットカードネットワークがすでに整備されており、eコマース市場への進出を検討している企業らにとってはビジネスを行う上での好条件が整っていました。

次にアフリカで最初のeコマースユニコーンであるJumiaの進出事例を見ていきたいと思います。2012年に設立された同社は大きな潜在需要を誇るナイジェリアからビジネスを開始し、その後エジプト、アルジェリア、ケニア等大陸内の計14カ国に事業を拡大させていきました。2019年には8万社以上のマーチャント、さらに400万人以上ものアクティブユーザーを抱えた同社でしたが、収益化に苦戦し、同年第四半期には6,600万ドルもの損失を計上、2019年通年の営業損失は2億4,700万ドルにまで膨らんだのです。同社はこれを受けて昨年末に事業を展開する14カ国中、カメルーンタンザニアルワンダと3カ国からの撤退を決定しました。Jumiaが収益化に苦戦した背景にはアフリカの市場は物流の統合化が進まず、デジタル決済も未整備であることが挙げられています。加えてアフリカ諸国の多くは高い輸入関税を課す一方で地元産の製品は少なくeコマース事業の運営コストが高くなりがちである点も課題として指摘されています。一方で現在はナイジェリアやエジプトなど6カ国にて独自の決済サービスJumiaPayを導入しており、今年に入り決済ボリュームが昨年の2倍に伸びているという明るいニュースもあります。

Jumiaの事例で見てきたように、先進国とは対照的に依然として郵便インフラの整っていない地域が多いアフリカ大陸にてビジネスを行うeコマース企業らは配達の際住所を完全に当てにできる訳ではありません。実際ルワンダでも郵便物は長距離バスからバイクタクシーという配達パターンをとっていることが多く、配達の正確性に不安が残るのがうかがえます。またナイジェリアでもその普及率はたった3%であるようにアフリカ大陸ではほとんどの人が銀行カードを所有しておらず、多くの国ではモバイルマネーアカウントを持っている大人は約10%に過ぎません。アリババは国内のeコマースエコシステムが十分に成長するのを待ってから新たなオンライン決済システムの導入とさらなるロジスティクスの改善を実施しましたが、アフリカでビジネスを行う企業らは最初から独自の包括的ソリューションを実装する必要があるのかもしれません。

関連する過去の面白記事:

  1. 「面白記事 v.04(投稿:2019年4月5日)記事6」Link

物流市場のマーケットポテンシャルとは?

さて、ここからは物流市場のマーケットポテンシャルに焦点を当ててお話していきたいと思います。

上記で少し触れたようにeコマース市場の成長にはさらなるインフラへの投資が不可欠です。アフリカ開発銀行は2025年までにベースライン目標を達成するために道路や鉄道などのインフラ投資に年間1,300~1,700億ドルもの資金を費やす必要があると発表しています。これは年間68~1,080億ドルもの資金不足を暗示しており、近年は建設における競争上の優位性をもつ中国がそのギャップを埋めるのを助ける主導的な役割を果たすことができるのではないかと期待する声も散見されます。

またインフラへの直接投資のみならず、既存の物流会社のさらなる事業拡大も必要不可欠と言えます。コロナウイルス発生後、貿易が混乱し個人や医療機関に生活必需品を供給するためトラック輸送など物流の重要性が再認識されました。しかしコロナウイルス発生前からアフリカ大陸で物流企業の需要はすでに高まっており、すでに多くのベンチャーキャピタルがアフリカ大陸でビジネスを行う地元の物流企業に着目していたのです。


民間セクターによるアセットライトなアプローチ事例

ここで、アフリカ大陸にてこれまで触れてきた物流上の課題にアプローチし、ビジネスに成功している地元の民間企業の事例をいくつかご紹介させていただきます。まず面白記事でも何度か扱ってきたナイジェリアのテクノロジー企業Kobo360

貨物所有者、トラック所有者、運転手、荷受人が効率的なサプライチェーンフレームワークを達成できるよう一貫したオンラインプラットフォームサービスを提供する同社は2017年にナイジェリアのラゴスで事業を開始以来、新たに大陸内の4カ国に事業を拡大してきました。2019年にはゴールドマンサックスや地元の商業銀行から計3,000万ドルもの資金調達に成功し、現在はアプリ上ですでに1万人以上のドライバーとトラック登録者を抱え、DHL、Honeywell、Unileverなど名だたるグローバル企業にサービスを提供しています。同社は物流プレイヤーをつなぐアプリの運用のみならず、独自の運転手向けファイナンスプログラムであるKoPayや保険商品であるKoboSafeなども設立しており、アフリカ大陸に残る物流上の課題にアプローチするテクノロジー企業として期待が集まっています。

同様の物流デジタルプラットフォームを展開するケニアのSendyも今年初頭にAtlantica Venturesや日本の豊田通商などから計2,000万ドルもの資金調達に成功し、現在はケニア、タンザニア、ウガンダにオフィスを構えています。プラットフォーム上に5,000台以上の車両を保有する同社はUnilever、DHL、Maersk、Safaricom、また上記でご紹介したJumiaにサービスを提供しており、Kobo360とともに多くのVCや投資家からの注目を集めています。


資本集約的アプローチの必要性

さて、ここまでご紹介してきた民間企業らのアプローチは出資を受けながらも比較的少ない資産で運用可能なものでしたが、成熟した物流市場を構築するためにはハード面でのより資本集約的なアプローチへの投資も必要であると考えられます。ここからはDHLの事例を用いてその必要性に関して考えていきたいと思います。今や世界最大のロジスティクス企業へと成長したDHLですが、これまで新しい国へ事業を拡大させる際、リース車両を用いたアセットライトなモデルを採用することが多くありました。しかし雇うトラックの品質管理を十分に行わない結果、荷物の損傷や遅延につながるケースに多々直面したのです。これは物流費用がヨーロッパより少なくとも4%~5%ほど高いインドで特に深刻な問題となり、同社は2018年にインド国内で輸送子会社を立ち上げるに至りました。同社は今後10年間でインドのみでさらに1万台のトラックに投資することを目指しています。

インフラ環境が不十分かつ労働者のリテラシーレベルが未だ高いとは言えないアフリカ市場でビジネスを実装する際にも同様の混合投資が必要になると考えられます。Kobo360やSendyのような企業が提供するアセットライトなプラットフォームが安全性や信頼性をさらに高めることももちろん重要ですが、十分な数の信頼できる車両を利用可能にするためにはハード面での追加投資も必要なのではないでしょうか。関連記事の3番目にあげている記事では、上記でご紹介した2社の事例のようにベンチャーファンドはアセットライトな企業にアプローチを続ける一方、資本集約的なアプローチを実施できる物流企業に開発金融機関などが直接投資を実施すべきであるとの提言が述べられています。

開発金融機関は主に途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的に支援する機関の総称であり、経済成長を後押ししたり、他の開発目標を前進させたりするセクターの触媒としての役割を果たすのに非常に適しています。人々の生活を根底から支える上で欠かせないアフリカの物流セクターはまさにこれら開発金機関などからのアプローチも必要としているのではないでしょうか。


終わりに

以前から中間層の拡大などによりアフリカのeコマース市場は経済的および商業的機会として投資家らの注目を集めてきましたが、今回のコロナウイルスの発生はその注目度をさらに高めました。コロナウイルス蔓延の長期化が予想されるだけに、より高度なロジスティクスとインフラストラクチャを整備し、eコマース市場の拡大を促進し人々の便利な生活を支える安全で効率性の高い物流網を構築することは必要不可欠と言えます。ケニアのSendyに対して日本の豊田通商が出資を行っている事例のように、日本企業にとってもアフリカのロジスティクス分野は未だ課題が多く残りつつも確実に需要の拡大が見込めるという観点でビジネスを行う上でポテンシャルに溢れたセクターなのではないでしょうか。

今回はeコマース需要の高まりから見えてくるロジスティクス分野のマーケットポテンシャルにターゲットを絞りお話してきましたが、もちろんeコマース市場の拡大を支えていくのはロジスティクスセクターだけではありません。さらなるインターネットの普及や労働者のITリテラシー向上など、課題は他にも様々存在します。インターネットの普及に関しては以前アフリカでのインターネットインフラ構築に関して扱ったコラムVol.3、またアフリカの宇宙・衛生分野への取り組みを扱ったコラムVol.4が該当するかと思いますのでご関心のある方は関連する過去のコラムのリンクをご覧ください。

毎日更新している面白記事では今後も火曜日を中心にロジスティクスやサプライチェーン分野に関する最新の話題をご紹介していきます。

今後もぜひお楽しみください!


関連する過去のコラム:

  1. 「コラムVol.3」Link
  2. 「コラムVol.4」Link

関連記事:

  1. 「Africa’s ride-hail markets are hot spots for startups and VC」Link
  2. 「The 3 trends shaping the future of logistics in African markets」Link
  3. 「Why investing in African logistics pays off」Link
  4. 「Transportation & Logistics 2030」Link
  5. How Ghana’s New Digital Finance Policy Can Drive Women’s InclusionLink
  6. 「The future of payments in Africa」Link
  7. 「Standard Chartered, Airtel Africa in Fintech pact」Link
  8. Mastercard: “In Africa, our biggest competitor is cash”Link

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