★目次★
こんにちは、Pick-Up!アフリカです☺️
みなさんはマイクロファイナンスを知っていますか?
マイクロファイナンスとは、一般的には貧困層や低所得層を対象に貧困緩和を目的として行われる小規模金融のことです。
エチオピアではこのマイクロファイナンスがお葬式に利用されており、なんと米国などの移民先でも利用されているようなのです。
今回はエチオピアに焦点を当ててその仕組みを考察していきたいと思います!
今回も最後までお読みいただければ幸いです。
| 💡マイクロファイナンス 小規模金融そのものは、金融講や小金貸し、高利貸し、質屋といった形態で、地域によってはすでに古くから存在していますが、それらの利用さえ困難であるか、あるいはその利用によっては所得改善が望めない貧困層や低所得層を対象に、開発諸機関によって小規模金融がさまざまな形態で導入されるようになり、それらがマイクロファイナンスと呼ばれるようになりました。(参考) |
(マイクロファイナンスに関連する記事はこちら!→https://www.pickup-africa.com/p-u-a-2026-vol29/)
1. 伝統的な相互扶助組織「イディール」と「イクブ」
エチオピアでは、何世代にもわたり、地域社会が非公式の相互扶助組織を通じて経済的ニーズや生活上のリスクを管理してきました。
代表的なものとして、緊急時や葬儀のための保険グループである「イディール(iddir)」と、メンバーが定期的に資金を出し合って順番に受け取る貯蓄システムである、回転貯蓄信用組合(ROSCA)の「イクブ(iquub)」があります。
グループごとに構造や規模は様々ですが、近隣住民や職場、宗教団体などの強い結びつきを基盤としている点が共通しています。
特に「イディール」とは、20世紀以降のエチオピアの都市を中心に普及した住民組織であり、葬儀に必要な費用や労働力を仲間同士で提供し合う自助型の保険クラブです。典型的なグループは50〜100家族で構成され、毎月会合を開いて資金や葬儀用品の収集について決定を行います。
その存在意義は、大規模な公開イベントであるエチオピアの葬儀の手配や費用の負担を取り除くことにあります。
(参考)
エチオピアの葬儀は、一体どのようなものなのでしょうか
葬式は、近親者のみならず、地域社会全体が参加する大規模な公開行事です。時には1,000人以上が参列することもあり、家や通りの脇に張られた白いテントは、故人の遺族が喪に服していることを示します。
弔問客は家を訪れ、遺族を慰めます。
特徴的なのは「言葉の少なさ」です。挨拶なしに出入りすることもあり、言葉以上に「そこにいること」という寄り添う姿勢が重視されます。悲しみを共有する過程で、親族や知人は、遺族に寄り添い、支えます。
音楽、ダンス、そして追悼の葬式文化
多くのアフリカ文化と同様、エチオピアの葬儀も音楽やダンス、太鼓が重要な要素です。悲しみを表現し、故人の人生を称えるための儀式として、地域コミュニティが深く関与します。
死後40日の追悼
死後40日目には、喪の期間の終わりを祝う大きな祝賀会が開かれます。この期間、遺族は黒い服や喪の装いを着用し、親族や知人の周囲も支え続けます。40日後の祝賀会は、教会での追悼ミサと遺族の家での食事会で構成され、「イディール」のメンバーが調理や準備を支援します。この集まりは、悲しみを分かち合い、物語を語り合うことで、新たな癒しをもたらす重要な機会となっています。
2. 移民の生活と移民先での適応
エチオピアからの移民たちは、世界中の移住先でもこの伝統的な金融ツールを保ち続けています。制度化された金融機関や公的社会保障が整っている先進国においても、彼らは非公式な相互扶助グループを形成し続けています。
なぜ故郷を離れた後もこの組織が存続するのでしょうか?
国家による保障が限られ、助け合いを重視する集団主義文化で育った人々にとって、イディールは単なるお金のやりくり以上に、コミュニティの絆を確かめ合い、支え合う重要な場として機能しているからです。
経済支援を超えた「コミュニティの力」
イディールが提供するのは、葬儀費用などの経済的な補償だけではありません。会員が亡くなった際、組織は以下のロジスティクス面での支援を提供します。
- 葬儀会社との調整や遺体搬送の手配
- 葬儀会場での接待(食事や椅子の手配、飲料の配布)
- 精神的な支えとしてのコミュニティの存在
例えば、米国という異国の地において、本来享受していた家族や共同体の支援ネットワークを失いがちな移民にとって、この組織は経済的セーフティーネットと社会的拠り所という二重の機能を果たしています。
イディールが「社会的拠り所としての役割を果たしている」ことで、多くの、エチオピアからの移民が正式な生命保険ではなく、イディールを選ぶのではないかと言われています。
イディールは、単に正式な保険の「代用品」として存在するのではなく、従来の金融機関には欠けている「コミュニティによるサポート」をグループ内に提供しています。
3. ボストンのタクシー運転手と「葬儀費用」の現実
ボストンで暮らすエチオピア人タクシー運転手のソロモンさん(仮名)の実例を見てみましょう!
1985年に留学生として渡米し、後にタクシー運転手となったソロモンさんは、2008年に同僚が亡くなったことをきっかけに、仲間たちと「イディール」を設立しました。きっかけは、遺族が莫大な葬儀費用に苦しむ姿を目の当たりにしたことでした。
エチオピアの伝統的な喪の儀式「レクソ」では、数日間にわたり100人以上の参列者を温かく迎えるため、食事や設備の準備で500〜2,000ドルほどがかかります。さらに、遺体を母国へ送還して埋葬する場合でも、移民先で大規模な式を行う場合でも、費用は平均して約1万ドル(約150万円以上)にも上ります。こうした予期せぬ大きな負担を、葬儀に直面したエチオピア人コミュニティ全体で分かち合うために、イディールは欠かせない存在なのです。
彼らが作ったイディールである、「エチオピアタクシー運転手葬儀協会」は、約100人のタクシー運転手で構成される非営利団体です。会員資格はタクシー運転手であることです。会員は月額30ドルの会費を支払い、万が一の死亡や病気といった緊急事態に備えています。
この組織の最大の特徴は、運営が極めて柔軟で効率的である点です。
- 会費徴収: 会員は全員タクシー運転手なため、徴収はなんとタクシーのルート上で行う場合もあります。徴収の仕方から見ても、組織のあり方はとても柔軟と言えます。
- 会員と偶然会った際に回収するなど、無理のない流動的な仕組みを構築しています。
- 意思決定: 毎月の定例会議ではなく、メールリストを活用した連絡網を維持し、必要最小限の会議で運営を回しています。
- 資金管理: 監査制度を導入し、透明性を確保。銀行口座への預金管理を徹底しています。
4. おわりに:金融ツールと社会ネットワークの両立
一見すると単純な金銭的助け合いに見える「イディール」ですが、その本質はセーフティーネットとしての金融機能と、同郷の人々を繋ぐ強力なソーシャルネットワークの双方を兼ね備えている点にあります。
孤立しがちな移民先の生活において、共に助け合い、伝統を守り続けるこの仕組みは、現代社会においてもなお失われないコミュニティの温かさと知恵を教えてくれます。イディールは、社会資本の創出と独自の金融セーフティーネットとして、エチオピア人コミュニティにおいて不可欠な存在となっています。
タクシー運転手の事例が示すように、こうした非公式な組織は、緊急事態に対処するための実用的な手段であると同時に、メンバー同士の深い連帯を育む重要な社会的インフラとして機能しています。
参考文献
https://www.sefaria.org/From_Sinai_to_Ethiopia%2C_Approbations.31?lang=bi&with=all&lang2=en





