★目次★
こんにちは!Pick-Up!アフリカです。アフリカ大陸では近年、反政府デモが増加傾向にあります。
本シリーズでは、アフリカで相次ぐデモ活動の傾向を国ごとに紐解いて解説しています。
今回扱う国は、モロッコ王国です。

モロッコの概要と政治的・社会的背景
アフリカ北西部に位置するモロッコは、立憲君主制で、同国の市民のほぼ全員がイスラム教(アラビア語でムスリム)のスンニ派です(参考)。
国王モハメド6世は国家元首であると同時に、モロッコのイスラム教徒にとっての宗教的指導者でもあり、政治・軍事・宗教の各分野で強い権限を保持しています。憲法上は立憲君主制を採用していますが、政策を作るのは王宮、それを実行するのが首相をはじめとする政府という役割になっていると報道されています。
参考:Morocco’s Gen-Z protests for better healthcare, education | GIS
★モロッコの社会・経済構造と広がる国民の不満
モロッコでは、高い失業率・脆弱な医療体制・社会的な不平等が長年の課題となっており、国民(特に労働人口)が不満を募らせていると各種報道が指摘しています。
①高い失業率と厳しい経済状況
モロッコにおける若年失業率は、2025年に過去最高の37%に急上昇しました(参考:日本は2025年12月時点で2.4%)。つまり、若者世代の労働人口のうち、3分の1以上が失業していることを意味し、深刻な状況だと報道されています。

この問題に対処するため、政府は、2024年に雇用支援や農村開発促進に取り組んだ他、最低賃金を5%引き上げました。
しかし、まだ生活費を満たすには概して不十分である上に、正規雇用の割合が極めて低く、多くの労働者が非正規・インフォーマルな形で働いていると報じられています(一部分析では無期契約者が少数という指摘もあります)。

この状態は、国民の生活が困窮するだけでなく、優秀な人材が欧州諸国に移住する「頭脳流出(Brain Drain)」の問題も引き起こしているとのことです。
モロッコでは物価高騰も深刻です。2018年から5年間、モロッコでは深刻な干ばつによって穀物生産が打撃を受け、生活必需品の価格上昇につながったと報じられています。
参考:
Morocco’s Gen-Z protests for better healthcare, education | GIS
日本の若者失業率 | 1970-2025 データ | 2026-2028 予測 | TRADING ECONOMICS
②脆弱な医療体制
モロッコでは、医療従事者の人員不足が問題になっており、これはCOVID-19の感染拡大期にすでに表面化していたそうです。
モロッコ公的監査院(Court of Audit)の報告によると、2021年末時点で、モロッコにおける医療従事者数は人口1,000人あたり1.64人に留まり、国連が掲げる必要最小基準(約4.45人/1,000人)を大きく下回るとのことです。
また、毎年600人以上の医師がモロッコから他国に移住しているとも指摘されています。
医療従事者や学生、労働組合が一貫して労働条件の改善、賃金の引き上げ、社会保障の提供などの改善を求めてきたものの、政府は抜本的な改革を実現できなかったとのことです。
参考:
Minister of Equipment: Up to 700 Doctors Migrate from Morocco Annually | Morocco World News
Healthcare Workers in Morocco Announce National Strikes | morocco24
③W杯に投資する政府と国民との温度差
①、②のような問題が存在する中、モロッコ政府は2030年のW杯(モロッコは開催国)に向けて、スタジアムの新設や交通インフラの改善に多額(87億ドル)を投資する計画があるそうです。
こうした巨額の投資は、国民が必要とする公共サービスの逼迫とギャップがあり、国民の間で強い反発を招いたと考えられています。
参考:
モロッコ:若者主導の抗議デモの広がり | 公益財団法人 中東調査会
モロッコでは過去にもデモがあった
モロッコでは、2011年と2016年にもデモが起こりました。要求内容は、汚職廃止、雇用口の拡大、王権の権限縮小(2011年のみ)などです。
2011年はアラブ諸国に広がった「アラブの春」の波を受け、モロッコでも全国規模でデモが行われ、憲法改正に繋がりました。2016年には北部のリフ地方を中心にデモが行われました。
これらのデモでは、若者が重要な役割を果たしました。特に2011年は、Facebookを中心とするSNSの活用によって約3万7000人のデモ参加者が集められたと報じられています。
特徴としては、デモ参加者は非暴力な形で抵抗運動を行ったものの、政府が暴力を伴う弾圧や逮捕で対応したことが挙げられます。
参考:
Morocco’s King Mohammed VI says social reform is priority amid youth-led protests | The National
Protesters demand reform in Morocco | News | Al Jazeera
Morocco: Thousands Demonstrate Peacefully | Human Rights Watch
A New Generation of Protests in Morocco? How Hirak al-Rif Endures | Arab Reform Initiative
Moroccan youth protest for constitutional reform, 2011 | Global Nonviolent Action Database
デモの概要と成果
①デモの時期
2025年9月27日から10月上〜中旬
②デモの主体と規模
主体はZ世代の若者です。自分たちを「GenZ 212」(「Gen Z」はZ世代、「212」はモロッコの国際電話コード)と名乗り、オンラインコミュニケーションサービスのディスコード(Discord)を中心とするSNSを通じて数万人のデモ参加者を集めたそうです。
モロッコの内務省は、参加者の70%以上が未成年者で、一部の集団では100%が未成年者だったと発表しています。
モロッコに限らず最近アフリカで広がるデモでは、明確な旗振り役が存在しない形で大規模なデモが組織されています。
デモの規模は、主要都市で急速に拡大しました(10月3日時点では国内23都市)。
当初は平和的(非暴力)な抵抗運動が計画されていたものの、一部の都市(特に政府の開発投資が不十分な地域)では、抗議活動が過激化し、治安部隊との衝突も伴いながら激化したと報道されています。
各種報道によると、少なくとも3人が死亡し、負傷者は数百人に及んだとのことです。
参考:
モロッコ、Z世代による教育・医療改革デモ、全国に飛び火(モロッコ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
モロッコ:若者主導の抗議デモの広がり | 公益財団法人 中東調査会
アフリカでZ世代デモ拡散 リーダー不在もSNSで団結、物価高に怒り | 日本経済新聞
デモのきっかけと要求内容
デモのきっかけは、2025年9月中旬にモロッコ南部の公立病院で帝王切開を受けた8人の妊婦が死亡した事件でした。
そこから医療制度の不備に対する不満が広がり、9月27日から若者を中心にデモが各地で行われました。
デモの主な要求内容は、以下の通りです。
- 公共医療や教育制度の改革
- 腐敗した政党の根絶
- 首相の辞任と現政権の解散
- 汚職および公的資金の横領に関与した個人に対する公正な司法手続きの開始
- 若者の尊厳と将来への希望
- 2030年W杯への多額投資に対する強い批判
参考:
マダガスカル、モロッコでZ世代の抗議運動 | 現代アフリカ地域研究センター
モロッコ、Z世代による教育・医療改革デモ、全国に飛び火(モロッコ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
Morocco’s Gen-Z protests for better healthcare, education | GIS
モロッコ:若者主導の抗議デモの広がり | 公益財団法人 中東調査会
SNSを通じたデモ参加者の動員
2025年のデモは、「GenZ 212」と名乗るグループがオンラインコミュニケーションサービスのディスコード(Discord)を使って参加を呼びかけたそうです。
Discordだけでなく、中国系動画投稿アプリのTiktokやInstagramなどのプラットフォームも利用されたと報道されています。
参考:
モロッコで若者の反政府デモ、治安部隊と衝突 教育向上など要求 | ロイター
政府は2,400人以上を起訴
若者主導のデモに対し、アジズ・アハヌッシュ首相(2021年10月〜26年2月現在)は若者たちとの対話を通じて社会課題の解決に取り組む姿勢を示しつつも、制度上の手続きと公共秩序を維持する必要性を強調しました。
暴力化した最近の若者主導の抗議をめぐり、モロッコ政府は2,400人以上を起訴したとのことです。裁判にかけられたデモ参加者の中には未成年も含まれており、アムネスティ・インターナショナルなどが非難しています。起訴の内容には、武装反乱、公務員に対する侮辱および暴力行為、重罪の扇動などが含まれているそうです。
参考:
モロッコ、Z世代による教育・医療改革デモ、全国に飛び火(モロッコ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
Morocco charges Gen Z protesters | AP News
モロッコ/西サハラ:若者の抗議活動を弾圧 過剰な武力行使 | アムネスティインターナショナル
デモの成果はあったのか
デモを受け、政府は若者の政治参画を促進する措置を発表し、社会改革に取り組むことを約束したとのことです。2026年予算法案にも、公共教育および医療を含む社会サービスを強化する内容が盛り込まれました。
具体的に取られた政策の例は以下の通りです。
- 35歳未満の政治参加者を増やすため、若年候補者の資格要件を緩和し、選挙運動費用の最大75%を補助する。
- 政党の役割強化と透明性の改善を行い、より多くの女性と若者が政党に参加・設立できるよう支援する。
- 2026年に、医療と教育に約1,300万ドルを配分し、これらの分野で27,000以上の雇用を創出する。
しかし、政府の発表と運動側の評価との間には依然として隔たりがあるとみられます。
参考:
Morocco vows social reforms after youth-led protests shake government | France 24
モロッコの2025年デモに見られる、従来の運動との違い
2025年の抗議運動は、2011年と2016年のデモ運動とは異なり、特定の政党や市民団体との連携を避け、匿名性の高いオンライン空間を基盤に展開された点が特徴的です。特定のリーダーを持たず、分散型で組織化された今回の運動は、アフリカ各地で広がるZ世代主導の抗議の潮流とも重なっています。
特にSNSの活用については、2011年と2016年のデモではFacebookを通して動員が行われました。しかし、2025年にはコミュニティ型ソーシャルメディアであるDiscordが広く使われました。
Discordはアカウントの匿名性を確保でき、Facebookなどと比べて公開性が低い形でコミュニケーションを取ることができるという利点があることから、今回のデモで使われたと考えられます。
参考:
Gen Z 212 Earthquake Youth Shaking Morocco’s Politics | Arab Reform Initiative
Morocco: The Gen Z 212 Uprising | Autonomies

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