みなさま、こんにちは。隔週で日曜日はコラムをお届けします。

本日のコラムのテーマは、「SDGsからみるアフリカの経済成長ーディーセントワークの視点」ということで、お付き合いいただければと思います。


皆様もご存じの通り、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟国193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた共通目標です。

このSDGsは、17の目標と169のターゲット・232の指標で構成されているわけですが、本日のコラムでは、そのなかから、「ゴール8:働きがいも経済成長も」として示される「包括的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」というひとつのターゲットを取り上げて、それにまつわるアフリカの政府の動向について経済成長とディーセント・ワークの視点から、掘り下げてみたいと思います。

世界とアフリカの現時点でのSDGs達成率の比較

はじめに、現時点でのSDGs達成度を2015年から比べたものについてご紹介します。2015年から毎年発刊されているSustainable Development Report の2020年版が先月刊行されました。今年は例年とは違い、2章での構成になっており、第1章では、新型コロナウイルスがSDGsの設定している目標に対し、どのような影響を及ぼしているのかということについて書かれています。

第2章では例年通り、達成度を数値化したスコアのランキングや、各ターゲットごとの進捗状況を各大陸ごとに比較した表などを用いて現時点での達成状況が明確に示されています。

このレポートによると、アフリカ大陸のなかで1位であるエジプトのスコアは68.8で、83位となり、全体的にアフリカ大陸は健闘はしているものの、未だに他の国に比べて伸び悩んでいる現状が見て取れます。

出典:Sustainable Development Report 2020 (p.28)

また、このグラフが示している通り、サブサハラアフリカやオセアニアはそのスコアが他の地域と差をつけて低くなっていることがわかります。右の図は、所得によるSDGsの達成度を示しており、所得の多さがSDGsの進捗に大きく影響していることもご理解いただけるかと思います。

Sustainable Development Report 2020

世界各国の取り組み – HLPF

はじめに、世界各国のSDGsの取り組みについてSDGsの目標達成のために世界中が注目し、協働しているHLPFと呼ばれる「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(High-level Political Forum on Sustainable Development:HLPF)」についてご紹介します。今年は7月7日〜16日で開催され、初の大規模なオンライン開催となりました。

これは、国連が毎年開催する国際会議で、「持続可能な開発目標(SDGs)を含む2030アジェンダ」のフォローアップとレビューを目的としています。今年のテーマは「Accelerated action and transformative pathways: realizing the decade of action and delivery for sustainable development」と題し、国際社会がSDGsの達成に向けた取り組みを軌道に戻し、その進展を加速させるために、いかに新型コロナウイルスのパンデミックに対応できるかということが議論されていました。

また、今年のHLPFとECOSOC(国際連合経済社会理事会)のオンラインでの一般討論のために日本が事前に提出したステイトメント(声明)では、日本の企業がアメリカのスタートアップ企業とパートナーを組み、ルワンダでドローンを活用したCOVID-19のテストサンプルの輸送ビジネスについて言及されていました。Link

アフリカのSDGsへの取り組み

世界各国が「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進に取り組む中で、アフリカでは54ヵ国全体での目標達成を目指し、国際NPO法人「アフリカ地域持続可能な開発目標センター(The Sustainable Development Goals Center for Africa:SDGC/A)」を設立し、本部をルワンダ置き、SDGsに関連する事業の準備・実施の促進及びSDGs達成に資する科学技術・知識の動員を目的として活動をしています。

2019年6月にはSDGC/Aが主催する国際会議“SDGs Implementation in Africa – Reflections on a three-year journey”が、ルワンダの首都キガリで開催されました。アフリカ域内から28か国、欧米豪アジア地域から14か国、3日間で延べ1,200名が参加し、アフリカ地域の現状を評価した報告書「AFRICA 2030 – Sustainable Development Goals Three-Year Reality Check」を作成し、アフリカ地域のSDGs達成に向けたここ3年間の歩みと今後必要なアクションを明らかにしました。

そのレポートでは主に4つの重要なメッセージが強調されていて、アフリカの出発点は他の国に比べて低い状況から出発しただけでなく、依然として複雑な課題が蔓延していることを示しています。

1)ヒューマンキャピタルインデックスが40%未満であるということ。(ヒューマンキャピタルインデックス:人的資本=職場訓練,学校教育によって新たに労働者個人に付加される能力をいう。教育という投資により,蓄積される知識や熟練を資本とみなす。Link

2)進捗状況が停滞し、場合によっては人口増加によって移住、貿易、金融は圧力を受け、目標をはるかに下回るどころか、むしろ年々悪化しているという国もあるということです。

3)正確なデータの取得が困難であるということ。十分なデータが存在しないため、過去3年間のSDGsの全体的なレビューは不可能であると記載されています。また、96の指標のみが利用できるデータを持っている一方で、それは包括的で一貫性がなく、その範囲、包括性、量、質は大きく異なっているものであるということです。大陸レベルでは、SDG 10、11、および12を追跡するのに十分なデータがないと書かれていました。

4)SDGsの資金調達が難航しているということ。年間総融資額は650億ドル(国内収益は5,000億ドル、政府開発援助から500億ドル、海外からの直接投資は500億ドル弱、送金は600億ドル)ですが、必要な追加の年間融資額は5,000億ドルからそして1.2兆ドル。すでに、サハラ以南のアフリカの3分の1では、その基本的な州の機能を満たすのに十分な収入がありません。

ゴール8が目指すものとは

では、現状と動向を少しお読みいただいたということで、SDGsの目標とするゴールは全部で17項目あるわけですが、今回は、ゴール8を中心にアフリカの経済発展について考えていきたいと思います。

ゴール8の「働きがいも経済成長も」では、生産性の向上と技術革新により、持続的な経済成長を促進することを狙いとしています。これを達成するためには、起業と雇用創出を促す政策の推進だけでなく、強制労働や奴隷制、人身取引を根絶するための効果的な措置を取ることも重要です。こうしたターゲットに留意しつつ、2030年までにすべての人の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を達成することを目標としています。Link

ゴール8のターゲット項目 link

では、この目標を達成するために具体的に決められたターゲット項目について下記の通りその抜粋をご紹介します。

8.1 各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。

8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。

8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。

8.4 2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を漸進的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。

8.5 2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。

8.6 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれも行っていない若者の割合を大幅に減らす。

8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。

8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。

8.9 2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。

8.10 国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。

8.a 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フ レームワーク(EIF)などを通じた支援を含む、開発途上国、特に後発 開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。

8.b 2020年までに、若年雇用のための世界的戦略及び国際労働機 関(ILO)の仕事に関する世界協定の実施を展開・運用化する。

上記が国連で採択されたSDGsゴール8のターゲット項目ですが、すでにアフリカでは、黒の太字で示した部分の具体的な取り組みがたくさん行われています。一つ一つの取り組みを紹介した記事を、今までの面白記事で取り上げていますので、もしご興味がある方は、過去の記事も合わせてご覧いただけると幸いです。

多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性:

雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援:

金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励:

観光業を促進する:

金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する:

ディーセントワークとは

さて、このゴール8を紐解く上で重要な概念になるのが、この「ディーセントワーク」という単語です。英語の「Decent」には、まともな・ちゃんとした・それなりの・きちんという意味がありますが、日本語に直訳しようとすると定義が曖昧になってしまいます。そこで、SDGsでは、このDecentであるWorkを、「働きがいのある人間らしい仕事」と訳し、この言葉とともに、その概念そのものの認識が「働き方改革」のなかでも共通認識として使われるようになりました。

ILOでは具体的な労働条件として、1日あたりの労働時間、賃金や休日の日数、労働の内容などが人間の尊厳を守り、健康を維持できるものであること、また人間らしい暮らしを持続できるものであるということを求めています。

しかし、米国国務省のTrafficking in Persons Report. 2019によると、提唱されている労働条件とは逸脱した、過酷な労働下での労働が現在でも続いているというデータもあります。

例えば、コーヒーの生産は非常に労働集約的であり、特にアフリカではほとんどすべての作業が手作業で行われています。タスクには、土地の準備、除草、剪定、肥料または農薬の散布、手作業での収穫、輸送が含まれます。国際労働機関(ILO)は、鋭利な道具による怪我、反復運動による怪我、重い荷物の持ち上げ、農薬の中毒、コーヒーの粉塵による呼吸器の病気、太陽など、コーヒーの生産と収穫に関連するいくつかの健康リスクを特定しています。Link

また、そもそも、国連が提唱しているこのディーセントワークの考え方では、

「What does “decent work” mean? Decent work means opportunities for everyone to get work that is productive and delivers a fair income, security in the workplace and social protection for families, better prospects for personal development and social integration.」

というように、職業選択の機会についても、すべての人々にとって公平であるように。ということが上記のように言及されています。

しかし、現実的には、アフリカでは大多数の労働者が農業に従事している中で、その仕事の機会を自ら選択している人はどのくらいいるのか、生まれた環境がゆえに過酷な労働を強いられている人たちが大多数であるとすれば、そもそもの始めの部分からこのディーセントワークという考え方をフォローできるのか。という根本的な部分にすでに課題があるとも言えます。

日本の中では、働き方改革のような分野で用いられているディーセントワーク=人間らしい働き方ですが、国によってその定義は大きく異なります。アフリカなどの国々については、このようなジレンマなしに語ることは難しいかもしれませんが、経済発展を進める上でこの概念は、忘れることのできない大切な視点なのではないでしょうか。

2030年までの残りの10年で何ができるのか。

さて、最後に、2030年までの残りの10年は行動の10年とも呼ばれています。

マッピングは終わり、これからそれぞれのゴールへの達成に向けて具体的に動き出そうとするフェーズに入ってきているという潮流の元、国内ではSDGsに関連したインパクト投資への兆しも年々高まっていて、日本の大手企業に関しても、三井住友DSAMのグローバルのSDGs株式ファンドや、世界インパクト投資ファンドなどが、SDGsへの貢献が期待される企業の株式に積極的な投資を行っています。

サブサハラアフリカへのインパクト投資に関しても成功例はたくさんあり、フランスの食品会社であるダノンは、ダノン・コミュニティーズを設立し、持続可能な地域ビジネスの資金提供と開発を目指しています。セネガルの酪農市場への参入や、ダノン自然保護基金の創設、農村農業コミュニティの復興を支援など10のソーシャルビジネスを7つの国でサポートし、その恩恵を受ける受益者は約100万人にのぼっています。

また、アフリカ開発銀行によると2050年までに4億5000万人のアフリカ人の若者が雇用市場に参入することが考えられていることから、アフリカにおける雇用機会の拡大は歴史的に前例のないことであり、全世界で対応すべき大きな課題であると言えます。

しかし、その中でSDGsで示される共通の目標を達成し、持続可能な社会を作っていくためには、対象のターゲットのみにフォーカスを置いて個別にアプローチするだけでは、足りないということが認識されています。例えば、インパクト投資家は、健康(SDG 3)や教育(SDG4)などのセクターに資金を提供することで、今回取り上げたゴール8のディーセントワークへの目標に向けて取り組んでいます。つまり、高等教育を受けた人々は、質の高い、つまり給与の良い仕事にアクセスできるようになり、多くの場合、医療保険や有給休暇などの賃金以外のメリットも享受できるようになるということです。

昨今は新型コロナウイルスの影響により、SDGsへのコミットが想定されていたものよりも厳しい状況になってきていると言えます。しかし、そのような情勢の中でも、残りの10年では、国が、企業が、個人が、何のために何ができるのかを考えて気持ちを新たに行動する必要があるというように感じています。

関連資料にSDGsに関わる投資情報や日本国内の企業の行動指針なども載せさせていただきました。ご興味ある方はぜひご一読いただければと思います。

長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

関連記事・資料:

  1. Africa and the Sustainable Development Goals: A long way to go Link
  2. AFRICA 2030 SDGS THREE-YEAR REALITY CHECK REPORT  –Link 
  3. アフリカ地域のSDGs達成を目指して -これまでの3年の歩みとこれからの挑戦 - Link
  4. SDGs達成のカギ、ディーセント・ワーク。-Link
  5. The High-level Political Forum on Sustainable Development – Link
  6. https://www.verite.org/africa/explore-by-commodity/coffee/
  7. 面白記事 v.17(投稿:2020年4月14日)- Link
  8. SDGsを漫画で紹介するルワンダからの取り組み!(動画あり)他、Covid-19関連の話題【面白記事 Vol. 49: 2020年6月2日配信】- Link
  9. 世界インパクト投資ファンドとは? 三井住友DSアセットマネジメント – Link
  10. グローバルSDGs株式ファンド 三井住友DSアセットマネジメント – Link


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