Pick-Up!アフリカのメンバーです。初めての海外旅行はルワンダでした。アフリカが大好きです!

こんにちは、Pick-Up!アフリカです!(^^)

今回は「密輸問題」ラストになります。今まで「野生生物」「鉱物資源」と続けて問題を取り上げました。まだ読んでいない!という方がいましたらぜひ合わせて読んでいただきたいです。

突然ですが、みなさんは「人骨を混ぜた麻薬」が猛威を振るい、国家非常事態宣言が出された国があることをご存知でしょうか?

それは、西アフリカにあるシエラレオネ共和国、そしてリベリア共和国での出来事です。両国では近年、安価で極めて中毒性が高い合成薬物「クッシュ(Kush)」が爆発的に蔓延していると言われています。(参考

街角には、クッシュの乱用によって手足が痛々しく腫れ上がり、意識を失ったように座り込む若い男性たちの姿があふれています。さらに恐ろしいことに、この薬物の成分には「人間の骨」が含まれているのではないかという噂(一説には製造過程の化学物質の代用とも言われています)から、中毒者たちが墓を暴いて人骨を盗み出す事件が多発。政府が墓地の警備を強化せざるを得ないという、文字通り世紀末のような事態に陥っているのです。(参考

なぜ、これほどまでに凄惨な薬物危機が広がってしまうのか?

その実態を探っていきましょう!

1、主にどんな薬物があるの?

オピオイド類、コカイン、アンフェタミン類、エクスタシーなど。これらはほとんどのアフリカの地域で法律により規制されています。

しかし大麻に関しては南アフリカ、マウライ、ザンビア、ジンバブエ、ガーナ、モロッコ、ルワンダ、ウガンダ、レソトで医療、または輸出目的で合法化されています。(参考

↑大麻が合法化されている国々

懸念される公衆衛生のリスクと社会的コスト

合法化は社会に重大な代償を支払わせるという強い懸念も存在します。

BBCの記事を元に解説しています。)

  • 「巨大タバコ企業」の出現と商業化の波 

すでに民間持株会社や金融機関は、大麻関連ビジネスに数百万ドルの創業資金を投じています。「大麻版スターバックス」を目指す動きや自動販売機の出現など、急激な商業化が進んでいます。特に、子供向けキャンディーを模した大麻入り食品(エディブル)の流通により、子供の救急外来受診件数が増加するという実害が生じています。

  • 入手性の向上による使用量の増加 

合法化によって入手しやすくなり価格が急落すれば、消費量は一気に増加する可能性が研究で示されています。

  • 脳への悪影響と依存症 

大麻は精神病や統合失調症の一因となるほか、一度でも使用した子供の6人に1人が依存症に陥り、18歳未満で喫煙を始めた人のIQ(認知機能)を不可逆的に低下させることが分かっています。さらに、急性酩酊状態での運転は、致命的な交通事故のリスクを大幅に高めます。

医療用大麻の厳格化とこれからの課題

大麻に含まれる化合物が、HIV/AIDS、多発性硬化症、がんなどの疾患の症状に対して治療効果を持つといういくつかの証拠があるのは事実です(参考

しかし、これらを「医療用大麻」として扱うのであれば、一般投票や州議会の承認ではなく、他の医薬品と同様に厳格な試験などを経て、安全性と有効性を評価すべきだという意見が強くあります。また、中央規制された薬局のみで調剤されるべきだとされています。

2、麻薬使用者は実際にどのくらい?

実際アフリカではどのくらいの人が麻薬を使用しているのでしょうか。

2023年薬物の蔓延状態に関する国連の報告書』から、アフリカの部分のみを引用して以下にまとめてみました。

1. 薬物ごとの内訳

2. 使用者数の合計値

  • 推定使用者数

 約 8,518 万人(10.10%)

  • 推定下限値

 約 5,041 万人(5.97%)

  • 推定上限値

約 1億 2,319 万人(14.60%)

アフリカのスラム街では正確な人口統計もできていません。そのような状況で統計されるアフリカの麻薬使用者数ですから、1億人以上という最大の見積もり数も現実味を帯びてきますね。

3、地域ごとの麻薬の流入

近年の研究や国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によると、アフリカでは地域ごとに異なる麻薬の流入・蔓延が確認されており、状況は深刻化しています。

  • 西アフリカ(コカインの急増): 2010年代以降、南米などからのコカインが大量に流入する中継地となり、治安悪化の要因に。
  • 東アフリカ(オピオイドの急増): こちらも2010年以降、ヘロインなどのオピオイド密売の急増が確認され、警鐘が鳴らされる。
  • 北・西アフリカ(合成麻薬の蔓延): トラマドールなどの合成麻薬の密売と乱用。

国連の報告書では、増加の原因を以下の二つの仮説から考察しています。

1、取り締まりの効率が上昇し、単に報告される件数が増加した

2、実際に取引の数が増加した

どちらが正解とはっきりとは言えませんが、これらに対抗するため、アフリカ連合(AU)は2019年に「麻薬対策行動計画」を採択し、需要と供給の両面からの削減に乗り出しています。

4、薬物による被害(シエラレオネやアフリカ諸国が直面する現実)

発展途上国、特に今回のクッシュの危機に直面するシエラレオネなどの国々において、薬物乱用の拡大は単なる個人の健康問題にとどまりません。

実際に薬物の密輸が蔓延するとどのような被害が発生するのでしょうか。

国家を圧迫する「経済的コスト」と「生産性の低下」

薬物乱用の増加は、発展途上国の限られた国家予算を大きく圧迫します。具体的には、以下の分野で莫大なコストが発生します。

  • 法執行・司法の負担: 取締り(警察)や裁判所、刑務所の維持・運営費の増加。
  • 医療費の増大: 薬物依存に伴う病気、救急外来の受診、早すぎる死への対応。
  • 労働力の損失: 失業と薬物乱用には強い相関関係があり、職場での事故や効率低下によって、国全体の経済生産性が大きく損なわれます。

コミュニティの安全を脅かす「犯罪の増加」

薬物は、地域社会の治安を急速に悪化させる起爆剤となります。

  • 組織的な暴力: 密売組織(カルテル)同士の縄張り争いにより、激しい暴力抗争が発生します。
  • 生活犯の急増: 依存症患者が薬物を購入する資金を得るために、窃盗、強盗、売春などの犯罪に手を染めるケースが後を絶ちません。

結果として、地域住民の安全な暮らしが根底から脅かされることになります。

「貧困」以上の破壊力を持つ「家族の崩壊」

薬物乱用は、社会の最小単位である「家族」をバラバラにします。

UNRISD(国連社会開発研究所)と国連大学がメキシコで行った調査では、「薬物使用は、貧困そのものよりも強く家族の崩壊と相関している」という事実が明らかになりました。家族の支えを失ったコミュニティでは、薬物問題がさらに悪化するという悪循環が生まれています。

 未来を奪う「教育への影響」と若者の悪循環

最も深刻なのは国の未来を担う「若者」への影響です。国連薬物犯罪事務所(UNODC)も18〜25歳が違法薬物の使用が最も多い層だと指摘しています。この時期の若者は、好奇心や自己肯定感の低さ、仲間からの圧力に影響されやすいだけでなく、高い貧困や経済悪化、それに伴う失業や教育不足といった社会経済的課題から、落胆や現実逃避の慰めとして薬物に依存しがちです。さらに、安価な薬物の入手しやすさといった環境的要因に加え、家庭での保護者の監督不十分や、家族に薬物乱用者がいるといった身近なリスクも重なることで、若者たちは教育や未来の機会を奪われる残酷な負のスパイラル(悪循環)へと囚われてしまいます。

このように、薬物によって教育の機会と健全な精神が奪われることで、結果として若者たちは貧困から抜け出すチャンスさえも失ってしまいます。

5、なぜアフリカが狙われる?張り巡らされる「密輸ルート」の正体

近年、アフリカが世界的な麻薬密輸の「巨大な中継地(ハブ)」と化している背景には、国際的な麻薬組織の戦略転換と、アフリカ諸国の政情不安があります。

もともと南米のコカイン取引業者は、北米市場での需要低迷やメキシコの麻薬カルテルの台頭、カリブ海ルートの封鎖といった壁に直面していました。そこで彼らが目をつけたのが、西アフリカの脆弱な法制度や、既存の密輸ネットワークだったのです。南米から西アフリカへ、そしてそこから欧州やアジアへと流れる新たな巨大ルートが形成されていきました。

現地では、主に以下のような密輸網(サプライチェーン)が機能しています。

  • 北部ハブからの「2大分岐ルート」 ギニアビサウ、ギニア、モーリタニアなどの湾岸部から陸揚げされたコカインは、内陸部で主に2つのルートに分かれて北上します。
    • ショートルート: マリのキダルを経由して、アルジェリアへと運ばれるルート。
    • ロングルート: ニジェール北部からチャドを経由し、エジプトやスーダンへと抜けるルート(ニジェールのアガデスからの密輸もここで合流します)。
  • 中東・欧州への玄関口「エジプト」 エジプトには、東部アフリカから運ばれてきた麻薬だけでなく、タバコなどの様々な非合法商品が集結します。ここはヨーロッパ、中東、アジアへと繋がる一大アクセスポイントとなっています。
  • 無政府状態が生んだ「リビア・ハイウェイ」 さらに深刻なのが、2011年のカダフィ政権崩壊以降、事実上の無政府状態に陥っているリビア南部です。この法の空白地帯を突き、リビアを堂々と北上する新たな密輸ルート「リビア・ハイウェイ」が誕生し、主要な密輸網として機能してしまっています。

麻薬密輸業者たちは、国家の混乱や取り締まりの緩さを巧みに利用し、裏社会のインフラを拡大し続けているようです。(参考

↑密輸ルートにされている主な国々

6、国際社会の取り組み

麻薬密売の恐ろしさは、単なる依存症患者の増加にとどまりません。国内外の犯罪組織が現地に根を下ろし、テロ組織の資金源になるなど、地域および国際社会の安定を揺るがす「安全保障上の脅威」となっている点です。

「アフリカが犯罪組織のセーフヘブン(安全な避難所)になる」という危機感から、以下のような国際的な法執行・犯罪対策プログラムが動いています。

  • EUのグローバル違法フロープログラム(GIFP)
  • UNODCのコンテナ管理プログラム(CCP)

これらは主に、西アフリカの港湾などに到着する大量のコカインを水際で検出・摘発することを目指しています。また教育の分野では、2018年に国連薬物犯罪事務所(UNODC)が西アフリカ初の薬物依存症学の学位課程の設立を支援し、西アフリカの大学で薬物問題に関する授業を開講しました。

   

7、「証拠」がないという課題

問題が解決しないその背後には「対策の根拠となるデータが圧倒的に不足している」という深刻な課題が隠されています。

一見すると、危機の性質が特定され、国際社会が一致団結してデータ(密売量)を測定し、的確な診断と対策を下しているように見えます。しかし、ここに大きな落とし穴があります。「麻薬密売が真の脅威である」という強い印象に対し、それを裏付けるデータ(エビデンス)があまりにも脆弱なのです。

密輸という裏社会の性質上、アフリカにおける実態把握には以下の困難が伴います。

  • 摘発・報告の不備: 密輸活動の大部分が摘発されず、公式に報告されない。
  • データの信頼性: 押収量や逮捕者数、作物の根絶データなどは不完全で問題が多い。

象徴的な例として、多くの注目を集める西アフリカでさえ、「人口レベルでの生産・密売・消費データが不足している」のが現状です。学生は話すことを恐れ、切実に必要な医療援助を求めることもできず、「大学生の薬物使用に関する情報はほとんどない」とも言われています。

8、なぜ薬物に頼ってしまう?

その背景には、貧困や格差社会への不満、そして政情不安などが隠れています。 例えば一部の地域では、軍が少年たちを都合のいい兵士に仕立て上げるため、意図的に薬物を与えて「破壊と殺戮以外は考えられない」洗脳状態に置くケースがあります。武力紛争に利用される子どもの95%が薬物に触れているとの証言もあります。(参考

薬物の恐ろしさは、このように人間の自律的な思考力を奪う点にあります。

また、近年のアフリカでは経済的格差が急速に拡大しています。国内で流通する薬物には安価なものも多く、貧困や格差という過酷な現実から一時的に逃れるために、薬物に手を染めてしまう若者が後を絶たないのが現状です。

そして最も大きな問題として、教育の機会の不足があげられます。西アフリカの大学で薬物依存症に関する授業が開講したことは先ほど述べましたが、特に農村部では薬物に関する教育、そもそも「教育そのものへのアクセスの欠如」などが問題となっています。ミズーリ大学保健専門職大学院の准教授であるマジー氏の最近の研究で、

「地域社会とのつながりが希薄な若者は、特に教育機会が不足している地方において、薬物乱用などの危険な行動に走る可能性がはるかに高いこと」

を明らかにしています。

最後に

麻薬の密輸問題を調べる中、蔓延している地域の若者について記述された「人生を切り開いていくために必要なインフラが整備されていない」という言葉が目に留まりました。

ここでいうインフラとは、道路や水道などの公的設備だけではありません。何よりもまず、麻薬が人体や人生に及ぼす悪影響を正しく知るための「教育」そして麻薬のほかに夢中になれる「娯楽活動」や「未来への選択肢があるという意識」といった、若者の心と命を支える社会的なインフラも含まれるのだと感じます。

彼らに正しい教育や心のゆとりを届けるためには、そもそも国のシステムを食い荒らし、安価な薬物を国内に流入させている「密輸のルート(サプライチェーン)とその背景にある汚職」という根本原因の根絶が不可欠です。

これまで3回にわたり、アフリカにおける密輸問題について解説してきました。アフリカがいまだに発展途上国と呼ばれる背景には、こうした密輸がもたらす深刻な影があります。密輸が国家のシステムを腐敗させ、その腐敗がさらなる密輸を蔓延させるという悪循環。環境や人、国家の体制そのものに悪影響しか与えないこの問題の、変化や実体をこれからも見つめ続けていかなければなりません。

逆に言えば、この密輸問題が解決されたとき、アフリカはよりクリーンで住みやすい場所になるはずです。アフリカならではの地域のつながりを大切にした発展を遂げ、この地が持つ独特の素晴らしさがきっと浮き彫りになってくるでしょう。

https://wdr.unodc.org/wdr2020/field/WDR_2020_QA_regional_trends_3_KN_TP.pdf

https://www.bbc.com/news/world-africa-43961738

https://www.gov.za/documents/acts/cannabis-private-purposes-act-7-2024-english-sepedi-03-jun-2024

https://www.bbc.com/news/world-africa-68742694

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